仕立て屋の妖精アイラ


妖精界に存在する、妖精王室。

王室の中には、妖精王室で働く妖精たちのお部屋が沢山あります。

 
その中でも、
木の根っこがグルグルと巻き付いた、重厚な木で出来た扉の部屋

それが、仕立て屋の妖精の部屋です。

 
私が仕立て屋の妖精の部屋を初めて訪れたのは、古代森の魔女時代
森の魔女のグループを創って間もない時でした。

 
妖精の女王レイラーアに、この妖精の部屋を訪れる様に言われ、私は部屋の前までやって来たのです。

 
扉をノックすると、ギギッと音を立てて扉が開き、

部屋を見渡すと、壁いっぱいに透明に光輝く糸が張り巡らされています。

「あなたのことは聞いているわ。そこの椅子に座ってちょうだい。」

 
声がする方を見ると、切株で出来た椅子の上に妖精が座っていました。

姿ははっきりとみえませんが、黄金色に輝く豊かな長い髪がゆらゆらと動いているのが見えます。

雰囲気だけでも、とても美しく聡明な妖精であることが感じられます。

 
私はその妖精の目の前にある椅子に座りました。

あなたの名前は?と私が聞くと、

「私に名前はないわ。好きなように呼んでちょうだい。」

というので、

 
私は彼女を「仕立て屋の妖精”アイラ”」と呼ぶことにしました。

アイラの目の前には、木製のかぎ針が空中に浮かんでいて、

アイラがかぎ針に何か話しかけると、かぎ針が壁から光輝く糸をいくつかひっぱってきて、何かを編み始めました。

 
「妖精の女王レイラーアから、あなたの為にドレスを作るよう言われているわ。出来上がるまで少し時間をちょうだい。」

アイラはそういうと、彼女が使っているかぎ針について色々な話をしてくれました。 

 
「このかぎ針はね、私が1年をかけて育てた大切な魔法の道具なの。
私が妖精王室で働く前、木の根っこに栄養を届ける仕事をしていたのは聞いたかしら?

毎年冬が終わると、私は以前住んでいた木の根元に”かぎ針が育つ種”をまいて、毎日栄養を注いでいるの。
1年の終わりに種をまいたところを掘り返すと、かぎ針が出来上がっているのよ。かぎ針は必要な分しか作られないから、毎年何本出来るのか私も分からないの。

かぎ針は持ち主が決まっているから、あなたのドレスにはあなた専用のかぎ針を使うし、妖精の女王レイラーアには、女王専用のかぎ針を使っているわ。

あなた専用のかぎ針は、この前出来上がったばかりよ。
そうやって、かぎ針は毎年必要な人の分しか育たないの。」

 
「かぎ針が育つ種は、私がかぎ針で洋服を完成させるたびに、かぎ針の中から出てくるの。種は瓶に入れて保管しているのよ。」

 
アイラは木の棚を指さすと、そこには小さな透明のガラス瓶が置いてあり、中にまあるい木の玉のような種が沢山入っているのが見えます。

 
私はふと疑問に思い、一番初めにかぎ針が誕生した時の話を聞いてみました。

 
「私が初めてかぎ針を作ったのは、木の根っこに栄養を届ける仕事をしている時だったわ。私はその時、木の妖精として働いていたの。木が育つために必要としている栄養やエネルギーがすぐわかるから、色々な木に必要とされて大忙しだったのよ。

木に必要な栄養・エネルギーは、それぞれの木の素敵なところを知ろう、仲良くなろうという気持ち、そして木への愛があればすぐに分かるものよ。
木の事をもっと知りたい、もっと輝かせてあげたいという愛情が、妖精界中から栄養とエネルギーを引き寄せていたの。


私はある時、栄養やエネルギーを届けるだけでなく、実際に何か物を作ってみたいと思ったわ。だから、普段から大好きな服を作る事にしたの。でも、それには服を作る道具が必要でしょ?そこで、魔法のかぎ針を作ったわ。
仲良くしている木の根っこをもらって、そこに魔法を宿してかぎ針を作ったの。

そう、あなたはもう気づいていたと思うけれど、かぎ針には魔法が宿っていて、意思を持っているの。」

 
「あ、もうドレスが出来たみたいね!」

 
アイラからの話を聞いている間に、私のドレスが完成した様です。私は近づいて、出来上がったドレスをよく観察しました。

真っ白の肌触りの良いドレスは、Aラインに広がっていて、
腕の部分はフリルになっています。ドレスの裾の部分には、緑色で葉っぱの模様が描かれています。シンプルですが、とてもとても美しいドレスです。

出来上がったドレスを着てみると、まるで妖精になったかの様に、体が軽やかです。肉体があることを忘れてしまうほどです。 

それと同時に、自分自身から発せられるエネルギーは存在感が増したのを感じます。

体は軽いけれど、エネルギーが大きくなり、広がった感覚があるのです。

 
私の中に眠っていた何かが目覚め、私という存在が大きくなったのを確信しました。

 
「このドレスは、あなたが元々持っている魅力を育て、増やし、磨き、更に輝かせてくれるのよ。私は、人も魔女も妖精も植物も、すべての万物の素敵な所をみつけて、更に輝かせるのが大好きなの。
私が言う魅力とは、人を魅了する力のことよ。あなたは森の魔女の創始者として、これからもっともっと魅力的な魔女を目指さないとね。

あなたが魅力的であればあるほど、地球に貢献する森の魔女たちが集まってくるわ。あなたは地球のためにもあなた自身のためにも、魅力を磨き続けないとね。」

 
このドレスが、私が初めてアイラに作ってもらったドレスでした。そしてアイラはその後、他の森の魔女の服もつくるようになりました。

 
アイラはレイラーアだけでなく、妖精王室の他の妖精の服をつくることもありました。

 
アイラのかぎ針によって作られる服は、妖精王室の認定を受けるほど、美しい魔法の服として有名だったのです。

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